大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)7015号 判決 1999年5月10日

原告代理人

田中豊

右同

藤原浩

右同

堀井敬一

事実及び理由

原告

付帯請求の起算日は、被告蝶名林陸義については平成一一年四月一一日、

同小林学については平成一一年四月一五日である。

裁判長

弁論を終結し、別紙記載の主文及び理由の要旨を告げて判決言渡

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 石村智 裁判所書記官 矢田幸美)

判決言渡関係

当事者の表示

別紙訴状写しの当事者欄中、原告、被告蝶名林陸義及び同小林学に関する記載のとおり

主文

別紙訴状写しの請求の趣旨中、原告、被告蝶名林陸義及び同小林学に関する記載のとおり

請求

別紙訴状写しの請求の原因中、原告、被告蝶名林陸義及び同小林学に関する記載のとおり

理由の要旨

被告蝶名林陸義及び同小林学は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって、被告両名において請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなす。

訴状

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

著作権侵害差止等請求事件

訴訟物の価額 金八〇九万七八一六円

貼用印紙額 金四万八六〇〇円

請求の趣旨

第一 別紙一覧表記載一の店舗(店舗名「アエラ」)関係

一 被告清原栄敏(以下「被告清原」という。)及び同蝶名林陸義(以下「被告蝶名林」という。)は、別紙一覧表記載一の店舗において、別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。

1 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽を再生する方法

2 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させてカラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生する方法

3 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させる方法

二 被告清原及び同蝶名林は、別紙物件目録記載一のカラオケ関連機器を別紙一覧表記載一の店舗から撤去せよ。

三 被告株式会社オリエント(以下「被告オリエント」という。)は、別紙一覧表記載一の店舗についてカラオケ関連機器をリースし、カラオケ用楽曲データを提供してはならない。

四1 被告清原は、原告に対し、金一〇七万六一〇一円及び内金一〇一万二五一二円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告株式会社ウッディ企画(以下「被告ウッディ企画」という。)は、原告に対し、金七八万八九六四円及び内金七二万七九〇八円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告蝶名林は、原告に対し、金二八万七一二三円及び内金二八万四五九二円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4 被告オリエントは、原告に対し、金八九万五四二四円及び内金八五万二三二四円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五 被告清原、同蝶名林及び同オリエントは、原告に対し、平成一一年四月一日から被告清原及び同蝶名林が別紙一覧表記載一の店舗において別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物の使用を停止するまで、連帯して一か月当たり金一万八九〇〇円の割合による金員を支払え。

六 仮執行宣言

第二 別紙一覧表記載二の店舗(店舗名「カウンターバーシャンテ」)関係

一 被告清原及び同久家友美(以下「被告久家」という。)は、別紙一覧表記載二の店舗において、別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。

1 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽を再生する方法

2 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させる方法

二 被告清原及び同久家は、別紙物件目録記載二のカラオケ関連機器を別紙一覧表記載二の店舗から撤去せよ。

三 被告オリエントは、別紙一覧表記載二の店舗についてカラオケ関連機器をリースし、カラオケ用楽曲データを提供してはならない。

四1 被告清原及び同オリエントは、原告に対し、連帯して金一六三万五五八二円及び内金一四八万七六四〇円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告久家は、原告に対し、金一四四万五七四〇円及び内金一三二万九七四四円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五 被告清原、同久家及び同オリエントは、原告に対し、平成一一年四月一日から被告清原及び同久家が別紙一覧表記載二の店舗において別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物の使用を停止するまで、連帯して一か月当たり金一万八九〇〇円の割合による金員を支払え。

六 仮執行宣言

第三 別紙一覧表記載三の店舗(店舗名「カラオケルームデュエット」、旧店舗名「美少女倶楽部」)関係

一 被告清原及び同ウッディ企画は、別紙一覧表記載三の店舗において、別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。

1 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽を再生する方法

2 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させる方法

二 被告清原及び同ウッディ企画は、別紙物件目録記載三のカラオケ関連機器を別紙一覧表記載三の店舗から撤去せよ。

三 被告オリエントは、別紙一覧表記載三の店舗についてカラオケ関連機器をリースし、カラオケ用楽曲データを提供してはならない。

四 被告清原、同ウッディ企画及び同オリエントは、原告に対し、連帯して金一一四万三一一八円及び内金一〇二万六八一六円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五 被告清原、同ウッディ企画及び同オリエントは、原告に対し、平成一一年四月一日から被告清原及び同ウッディ企画が別紙一覧表記載三の店舗において別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物の使用を停止するまで、連帯して一か月当たり金一万八九〇〇円の割合による金員を支払え。

六 仮執行宣言

第四 別紙一覧表記載四の店舗(店舗名「パブトップス」)関係

一 被告清原及び同小林学(以下「被告小林」という。)は、別紙一覧表記載四の店舗において、別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。

1 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽を再生する方法

2 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させる方法

二 被告清原及び同小林は、別紙物件目録記載四のカラオケ関連機器を別紙一覧表記載四の店舗から撤去せよ。

三 被告オリエントは、別紙一覧表記載四の店舗についてカラオケ関連機器をリースし、カラオケ用楽曲データを提供してはならない。

四1 被告清原及び同小林は、原告に対し、連帯して金二〇七万四二八八円及び内金一八一万一五九二円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告オリエントは、原告に対し、金四九万四九一三円及び内金四七万五五四八円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五 仮執行宣言

第五 別紙一覧表記載五の店舗(店舗名「美少年倶楽部」)関係

一 被告清原、同ウッディ企画及び同オリエントは、原告に対し、連帯して金一三〇万四〇二九円及び内金一一七万一六五六円に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二 仮執行宣言

第六 訴訟費用は被告らの負担とする。

請求の原因

第一 当事者

一 原告

原告は、「著作権二関スル仲介業務二関スル法律」(昭和一四年法律第六七号)に基づき、著作権に関する仲介業務をなすことの許可を受けたわが国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内・外国の音楽著作物の著作権者からその著作権の全部又は一部(演奏権、上映権等の支分権)の移転を受けるなどしてこれを管理し(内国著作物についてはその著作権者と著作権信託契約を締結することにより、外国著作物についてはわが国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互保護管理契約の締結による。)、国内のラジオ・テレビの放送事業者をはじめとして、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し利用者から著作物使用料を徴収して、それを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。

そして、別紙カラオケ楽曲リストに記載の音楽著作物は、いずれも原告がそれぞれの著作権者から著作権の信託的譲渡を受けてその著作権を管理する音楽著作物(以下、「管理著作物」という。)である。

二 被告ら及び本件各店舗の営業

1 被告オリエントは、音響装置設備の販売、賃貸等を目的として平成三年三月一日に設立された東京都江戸川区西葛西四丁目二番六三号を本店所在地とする会社であって、スナック等の社交飲食店に対してカラオケ装置をリースし、カラオケ用楽曲データを提供するいわゆるカラオケリース事業者である(甲第一号証)。

2 被告ウッディ企画は、不動産の賃貸・管理、バー・スナックの経営等を目的として平成三年二月二一日に東京都渋谷区宇田川町一三番八号を本店所在地として設立された会社である(甲第二号証)。

被告ウッディ企画は、右のとおり法人格を取得しているのであるが、当初から、その設立目的がバー・スナック等の営業に係る食品衛生法又は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の許可名義人となることにあり、法人としては形骸であり、被告清原とその実質は同一である。登記簿上、末永洋市が代表者とされているが、同人は全く名目上のものにすぎない。

被告清原は、後記のとおり本件各店舗の経営者(共同経営者を含む。)であって、東京都墨田区江東橋四丁目一五番地四に「ウッディビル」という名称の建物を所有(甲第三号証)して同建物において別紙一覧表記載二の店舗を、江東区亀戸一丁目三五番地一に「亀戸ウッディビル」という名称の建物を所有(甲第四号証)して同建物において別紙一覧表記載三ないし五の各店舗を、それぞれ経営し又は経営していた。

3 「アエラ」について

<1> 被告清原は、平成七年一一月二日、被告ウッディ企画を名義人として食品衛生法上の許可を受け、遅くとも右同日には「アエラ」の営業をしていた。被告清原は、右同日以降、店舗内にカラオケ装置を設置し、それを操作して伴奏音楽を再生して(カラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生することを含む。)顧客又は従業員に伴奏音楽に合わせて歌唱させ、営業上の利益の増大を図ってきたのであるが、管理著作物の利用につき、原告の許諾を受けていない。

<2> 被告清原は、平成八年六月八日、被告オリエントとの間で、訴外李の名義で通信カラオケ装置のリース契約及びカラオケネットワークサービス契約を締結して、被告オリエントからリースを受けたカラオケ装置を店舗内に設置した上、カラオケ用楽曲データの配信を受け、右<1>のとおり、原告の許諾を受けることなく管理著作物を利用してきている。

<3> 被告蝶名林は、平成一〇年七月一五日、自己の名義で食品衛生法上の許可を受け、同日以降、被告清原と「アエラ」を共同経営している。

4 「カウンターバーシャンテ」について

<1> 被告清原は、平成六年一月一八日、被告オリエントとの間で、訴外山田愛の名義でカラオケ装置のリース契約を締結して、営業を開始していた「カウンターバーシャンテ」の店舗内に被告オリエントからリースを受けたカラオケ装置を同月二二日に設置し、右3<1>と同様の方法で、原告の許諾を受けることなく管理著作物の利用を始めた。そして、被告清原は、平成八年一二月、被告オリエントとの間で、同被告の妻である訴外清原由美子の名義で通信カラオケ装置のリース契約及びカラオケネットワークサービス契約を締結して、同様に、通信カラオケ装置を設置した上、カラオケ用楽曲データの配信を受け、原告の許諾を受けることなく管理著作物を利用してきている。

<2> 被告久家は、平成六年八月二五日、自己の名義(武智友美名義)で食品衛生法上の許可を受け、同日以降、被告清原と「カウンターバーシャンテ」を共同経営している。

5 「カラオケルームデュエット」について

<1> 被告清原は、平成六年一月二七日、被告オリエントとの間で、訴外津曲義人の名義でカラオケ装置のリース契約を締結して、営業を開始していた「カラオケルームデュエット」(当時の店舗名は、「美少女倶楽部」)の店舗内に被告オリエントからリースを受けたカラオケ装置を同月三一日に設置し、右3<1>と同様の方法で、原告の許諾を受けることなく管理著作物の利用を始めた。そして、被告清原は、平成一〇年三月一九日、被告オリエントとの間で、通信カラオケ装置のリース契約及びカラオケネットワークサービス契約を締結して、同様に、通信カラオケ装置を設置した上、カラオケ用楽曲データの配信を受け、原告の許諾を受けることなく管理著作物を利用してきている。

<2> 被告清原は、平成六年一一月二日、被告ウッディ企画を名義人として食品衛生法上の許可を受けた。

<3> 「カラオケルームデュエット」の平成六年当時の店舗名は「美少女倶楽部」であったが、被告清原は、平成八年八月三一日をもつてこれを閉店し、平成一〇年四月六日、「カラオケルームデュエット」の名称で再開した。

6 「パブトップス」について

<1> 被告清原との共同経営者である被告小林は、平成四年五月一日、自己を名義人として食品衛生法上の許可を受け、遅くとも右同日には「パブトップス」の営業をしていた。被告清原及び同小林は、右同日以降、店舗内にカラオケ装置を設置し、それを操作して伴奏音楽を再生して顧客又は従業員に伴奏音楽に合わせて歌唱させ、営業上の利益の増大を図ってきたが、管理著作物の利用につき、原告の許諾を受けていない。

<2> 被告オリエントとの間で、被告小林は、平成九年五月二五日、通信カラオケ装置のリース契約を締結し、被告清原は、同月二日、カラオケネットワークサービス契約を締結した。被告清原及び同小林は、右同日には、被告オリエントからリースを受けた通信カラオケ装置を店舗内に設置した上、カラオケ用楽曲データの配信を受け、右<1>のとおり、原告の許諾を受けることなく管理著作物を利用してきた。

<3> 被告清原及び同小林は、平成一〇年一一月三〇日をもって「パブトップス」を閉店し、管理著作物の利用も一応収束させたが、営業再開の機会をうかがっており、いつ何時管理著作物の無許諾利用が再開されるか予断を許さない状況にある。

7 「美少年倶楽部」について

<1> 被告清原は、平成六年三月二日に訴外松本光一を名義人として、同年一一月二日に被告ウッディ企画を名義人として食品衛生法上の許可を受け、遅くとも同年四月二一日には「美少年倶楽部」の営業をしていた。被告清原は、右同日以降、店舗内にカラオケ装置を設置し、それを操作して伴奏音楽を再生して顧客又は従業員に伴奏音楽に合わせて歌唱させ、営業上の利益の増大を図つてきたが、管理著作物の利用につき、原告の許諾を受けていない。

<2> 被告清原は、被告オリエントとの間で、平成六年四月一一日、訴外松本光一を名義人としてカラオケ装置のリース契約を締結し、同月二一日には、被告オリエントからリースを受けたカラオケ装置を店舗内に設置し、右<1>のとおり、原告の許諾を受けることなく管理著作物の利用を始めた。そして、被告清原は、平成九年七月一七日、被告オリエントとの間で、通信カラオケ装置のリース契約及びカラオケネットワークサービス契約を締結して、同様に、通信カラオケ装置を設置した上、カラオケ用楽曲データの配信を受け、原告の許諾を受けることなく管理著作物を利用してきた。

<3> 被告清原は、平成一〇年八月三一日をもって「美少年倶楽部」を閉店し、右<2>の各契約を解除して現在に至っている。

第二 著作権侵害行為について

一 社交飲食店におけるカラオケの使用について

1 他人の音楽著作物を公に演奏(歌唱を含む)・上映して使用する者は、法律に定める除外規定に該当する場合でないかぎり、その著作物の利用について著作権者の許諾を受けなければならず、著作物利用者が許諾を得ないで著作物を演奏・上映すれば著作権の侵害となる(著作権法二二条、二六条、六三条)。

2 クラブ、バー、スナック等の社交飲食店において、カラオケ装置を使用して顧客又は店の従業員が歌唱する場合、著作権法上の規律の観点からすると、その歌唱の主体が店の営業主であることは、最三小判昭和六三・三・一五民集四二巻三号一九九頁が判示するところであり、判例・学説上既に確定している。したがって、カラオケ伴奏による歌唱という形で音楽著作物を利用するには、社交飲食店の営業主が著作権者の許諾を受けなければならないのである。

3 本件各店舗に設置されているカラオケ関連機器は、客の歌唱を補助するために楽曲のメロディを再生する機能を有するのみならず、ボーカルメロディの音量、キーの高さ、伴奏音楽のテンポなど種々の調整をすることができ、歌唱する客の好みや歌唱力に合わせて伴奏音楽を再生することができるものであって、極めて高性能かつ多機能なものであるから、著作権法施行令附則三条にいう「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」に当たる。したがって、本件各店舗におけるカラオケ伴奏音楽の再生(演奏)については同法附則一四条の適用はなく、カラオケ関連機器を操作して伴奏音楽を再生するという形で音楽著作物を利用するには、社交飲食店の営業主が著作権者の許諾を受けなければならないのである。

4 ビデオディスクあるいはレーザーディスク等(これらをビデオグラムという。甲第五号証の著作物使用料規程参照)は二次的著作物である映画に当たるところ、映画に固定された伴奏音楽と歌詞は映画の原著作物に当たる。原著作者(作曲家と作詞家)は、ビデオグラムの利用につき、映画の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有し(著作権法二八条)、結局、上映権を専有するのである(同法二六条二項)。したがって、カラオケ関連機器を操作してビデオグラムに収録されている伴奏音楽と歌詞を再生することは、同法附則一四条の「適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生」に該当せず、社交飲食店の営業主は、著作権者の許諾を受けなければ音楽著作物を利用することができないのである。

二 通信カラオケについて

1 科学技術の進歩に伴い、カラオケ関連機器の発展も著しく、通信カラオケと呼ばれるものが今日ではごく一般的なものになっている。通信カラオケとは、音楽著作物(歌詞を含む。)をコンピユータ等の記憶装置にデータベースの構成部分として複製し、それを送受信装置を用いて有線送信して利用に供するシステム及び機器を総称していう。通信カラオケにより音楽著作物を再生して利用するには、従来のカラオケ装置と同様、マイク、スピーカーあるいはモニターテレビといったものが必要であるが、そのほかに端末機と呼ばれる受信・再生用機器を設置することが必要である。

2 通信カラオケには、端末機に高速大容量の磁気記録装置(ハードディスク)が内蔵されていて、配信された楽曲データを大量に記録することができ、利用の都度ホストコンピュータにアクセスする必要のない「蓄積型」と呼ばれるもの(業務用にはこの型のものが多く利用される。)と、端末機に高速大容量の磁気記録装置が内蔵されておらず、原則として利用の都度ホストコンピュータから楽曲データの配信を受ける必要のある「非蓄積型」と呼ばれるもの(家庭用にはこの型のものが多く利用される。)とがある。

3 蓄積型、非蓄積型のいずれであっても、通信カラオケを利用するには、カラオケ関連機器を買い取り又はリースを受けるだけでなく、楽曲データの提供を受けなければならない。そのための利用者とカラオケリース事業者との間の契約が楽曲データ提供契約であるが、「カラオケネットワークサービス契約」などと称されている。

三 社交飲食店経営者である被告らの著作権侵害行為

1 被告清原及び同蝶名林は、「アエラ」の店舗内に通信カラオケ装置及びレーザーディスクカラオケ装置を設置して、飲食物を提供するかたわら、原告の許諾を受けることなく、カラオケ装置を操作して管理著作物である伴奏音楽を公に再生し、それに合わせて顧客又は従業員に歌唱させ、原告の演奏権又は上映権(レーザーディスクカラオケの再生)を侵害している。

2 被告清原及び同久家は、「カウンターバーシャンテ」の店舗内に通信カラオケ装置を設置して、飲食物を提供するかたわら、原告の許諾を受けることなく、カラオケ装置を操作して管理著作物である伴奏音楽を公に再生し、それに合わせて顧客又は従業員に歌唱させ、原告の演奏権を侵害している。

3 被告清原及び同ウッディ企画は、「カラオケルームデュエット」の店舗内に通信カラオケ装置を設置して、飲食物を提供するかたわら、原告の許諾を受けることなく、カラオケ装置を操作して管理著作物である伴奏音楽を公に再生し、それに合わせて顧客又は従業員に歌唱させ、原告の演奏権を侵害している。

4 被告清原及び同小林は、平成一〇年一一月三〇日まで、「パブトップス」の店舗内に通信カラオケ装置を設置して、飲食物を提供するかたわら、原告の許諾を受けることなく、カラオケ装置を操作して管理著作物である伴奏音楽を公に再生し、それに合わせて顧客又は従業員に歌唱させ、原告の演奏権を侵害していた。前記第一、二、6、<3>のとおり、右被告らは、「パブトップス」を閉店したものの、営業再開の機会をうかがっており、いつ何時管理著作物の無許諾利用が再開されるか予断を許さない状況にある。

四 カラオケリース事業者である被告オリエントの著作権侵害行為

1 被告オリエントは、前記第一、二、3ないし7のとおり社交飲食店経営者である被告らとの間でカラオケ装置のリース契約又は通信カラオケについてのカラオケネットワークサービス契約を締結し、本件各店舗に対してカラオケ装置をリースし又は楽曲データの配信をしている。

社交飲食店経営者である被告らの行為が著作権侵害行為に当たることは前記のとおり明らかであるが、管理著作物を無許諾で利用する社交飲食店に対し、カラオケ装置のリース契約又はカラオケネットワークサービス契約に基づき、カラオケ装置又はカラオケ用楽曲データを提供する被告オリエントの行為は、以下のとおり、社交飲食店経営者である被告らの著作権侵害行為に加担するものである。

2 すなわち、カラオケリース事業者が、

<1> 社交飲食店経営者において、原告の許諾を受けずに、リースしたカラオケ装置を使用して管理著作物を再生し、客に歌唱させることを認識しながら、

<2> リース契約に基づき、カラオケ装置又は通信カラオケ楽曲データを提供して、著作権侵害の結果を招来した場合には、

故意による幇助の共同不法行為責任を負わなければならない(大阪高判平成九・二・二七判時一六二四号一三一頁〓いわゆる魅留来事件高裁判決は、これと同旨の判断を示した。)。

3 次に、業務用カラオケ装置を社交飲食店にリースした場合において、社交飲食店経営者が原告の許諾を受けないまま当該カラオケ装置を使用して管理著作物を再生し客に歌唱させるときは、当然に原告の著作権を侵害することになるのであるところ、このように著作権侵害の結果が発生する危険の極めて高い業務を日常的に反復し、しかも音楽著作物の存在をその存立の基盤とし、これによって利益を得ているカラオケリース事業者は、その職業ないし社会的地位に照らし、以下に述べる注意義務を負うべきものである。

<1> 社交飲食店経営者とリース契約を締結するに先立って、当該経営者に対し、カラオケ装置をその目的(すなわち、伴奏音楽を再生し、それに合わせて顧客又は従業員に歌唱させる)のために使用するには、原告との間で著作物使用許諾契約を締結する必要がある旨を周知徹底させるべき注意義務がある。

リース事業者においてこの義務に違背して、漫然とリース契約を締結し、著作権侵害の結果を招来した場合には、過失による幇助の共同不法行為責任を負わなければならない。

なお、リース事業者において右の必要性の告知をしたところ、当該経営者が使用許諾契約を締結する意思がないことを表明した場合には、リース事業者はリース契約の締結を拒絶しなければならないのであって、当該経営者に使用許諾契約を締結する意思がないことを知りながら、リース契約を締結し、著作権侵害の結果を招来した場合には、前記2のとおり、故意による共同不法行為責任を負うことになる。

<2> リース契約締結後当該経営者に対する通信カラオケ楽曲データの提供に先立って、原告との間で著作物使用許諾契約を締結したこと又は少なくとも当該経営者が原告に対して右契約締結の申込みをしたことを確実な資料に基づいて確認すべき注意義務がある。

リース事業者においてこの義務に違背して、漫然と楽曲データを提供し、著作権侵害の結果を招来した場合には、過失による幇助の共同不法行為責任を負わなければならない。

なお、リース事業者において右の確認をしたところ、未だに使用許諾契約の締結もその申込みもされていないことが判明した場合には、リース事業者は楽曲データの提供を留保しなければならないのであって、留保しないで著作権侵害の結果を招来した場合には、前記2のとおり、故意による共同不法行為責任を負うことになる。

<3> リース契約を締結し楽曲データの提供を開始した後においても、随時著作物使用許諾契約の有無を確認すべき注意義務がある。

リース事業者においてこの義務に違背して、漫然とカラオケ装置のリース又は楽曲データの提供を継続し、著作権侵害の結果を招来した場合には、過失による幇助の共同不法行為責任を負わなければならない。

なお、リース事業者において右の確認をしたところ、使用許諾契約が解除されるなどして有効な契約が存在しないことが判明した場合には、リース事業者は、リース契約又は楽曲データ提供契約を解除して、カラオケ装置を引き揚げるか楽曲データの提供を停止しなければならないのであって、これらの措置を講ぜずに著作権侵害の結果を継続させた場合には、前記2のとおり、判明後については故意による共同不法行為責任を負うことになる。

4 被告オリエントは、社交飲食店経営者である被告らが本件各店舗において被告オリエントのリースに係るカラオケ装置又は提供に係る楽曲データを使用して、原告の許諾を受けることなく、伴奏音楽を再生し客に歌唱させることを知りながら、カラオケ装置のリース契約又は楽曲データ提供契約に基づき、カラオケ装置又は楽曲データを提供してきたのであるから、社交飲食店経営者である被告らの著作権侵害行為に故意により加担しているものである。

仮に、被告オリエントが無許諾利用の事実を知ちなかつたとしても、同被告は、前記3の<1>ないし<3>の注意義務のいずれをも怠っていたものであるから、過失による共同不法行為責任を免れることはできない。

よって、被告オリエントは、本件各店舗にカラオケ装置のリース契約又は楽曲データ提供契約に基づき、カラオケ装置又は楽曲データを提供した日以降、社交飲食店経営者である被告らと連帯して原告が被った後記損害を賠償すべき義務を負う。

五 被告らに対する差止請求

1 原告は、著作権を侵害している社交飲食店経営者である被告清原、同蝶名林、同久家、同ウッディ企画及び同小林に対し、著作権法一一二条一項に基づき、それぞれの経営に係る店舗における管理著作物の演奏(歌唱を含む。)及び上映の差止めを求める権利を有する。

また、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器は、いずれも著作権法一一二条二項にいう「もっぱら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たるから、原告は、右各被告に対し、同項にいう「廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置」として、右カラオケ関連機器の右各店舗からの撤去を求める権利を有する。

2 原告は、著作権侵害に加担する被告オリエントに対し、著作権法一一二条一項に基づき、その加担の態様に応じて、カラオケ関連機器をリースすること又はカラオケ用楽曲データを提供することの各差止めを求める権利を有する。

第三 損害について

一 使用料相当損害金

1 社交飲食店経営者である被告らについて

原告は、被告らの前記の著作権侵害行為により、次のとおり管理著作物の使用料相当額の損害を被った。

すなわち、原告の管理著作物を利用する者が原告に対して支払うべき使用料は、原告が主務官庁である文化庁の認可を受けて定めた「著作物使用料規程」によるものとされている(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律第三条)。そして、右規程によると、本件各店舗のような社交場において管理著作物を演奏・上映する場合の使用料は、包括的使用許諾契約を結ばない場合には、一曲一回の使用料によるものとされ(第二章、第二節5「社交場における演奏等」)、社交場の営業形態により業種の区分がされている(カラオケ伴奏による歌唱が行われる場合の一曲一回の使用料は、別表15から別表18までに定める生演奏の使用料とすることとされている。同備考<17>)ところ、本件各店舗の営業形態には別表15が適用となる。

著作物使用料規程に従って、本件各店舗の使用料相当額の損害金を計算すると、別紙一覧表の「使用料相当損害金合計」欄記載のとおりである。

2 被告オリエントについて

被告オリエントは、前記第一、二、3ないし7のとおり、カラオケ装置のリース契約又は楽曲データ提供契約に基づくカラオケ装置又は楽曲データの提供によって、社交飲食店経営者である被告らと共同して不法行為をしてきたのであるから、本件各店舗におけるカラオケ装置又は楽曲データの提供開始以後について、社交飲食店経営者である被告らと連帯して本件各店舗における使用料相当損害金を支払う義務がある。その金額は、別紙一覧表の「使用料相当損害金合計」欄記載のとおりである。

3 別紙一覧表記載一ないし三の各店舗については、平成一一年四月一日以降も、管理著作物の使用が停止されるまで、原告に一か月当たり各金一万八九〇〇円の割合による損害が発生する。

二 遅延損害金

被告らの著作権侵害行為による使用料相当損害金は、不法行為による債務であって侵害行為の日から遅滞に陥るものであるところ、平成一一年三月三一日までの遅延損害金を計算すると、別紙一覧表の「遅延損害金」欄記載のとおりである。

三 弁護士費用

原告は、本件訴訟提起を弁護士に依頼せざるを得なかったが、その費用の相当額は、本件訴訟物(差止請求、損害賠償請求、将来請求)の価額の合計額の二割を下回ることはない。別紙一覧表の「弁護士費用」欄記載のとおりである。

第四 結論

以上の次第で、原告は、

<1> 社交飲食店経営者である被告らに対し、著作権法一一二条一項に基づき本件各店舗における管理著作物の使用の差止めを求めるとともに、同条二項に基づき著作権侵害行為に供された機械又は器具である別紙物件目録記載のカラオケ関連機器の本件各店舗からの撤去を求め、

<2> 被告オリエントに対し、同条一項に基づき、本件各店舗においてカラオケ装置をリースし、楽曲データを提供することの差止めを求め、

<3> 各被告に対し、不法行為による損害賠償として請求の趣旨記載の各金員(将来請求を含む。)の支払を求める。

証拠方法

一 甲第一号証(被告オリエントの商業登記簿謄本)

二 甲第二号証(被告ウッディ企画の履歴事項全部証明書)

三 甲第三号証(ウッディビルの全部事項証明書)

四 甲第四号証(亀戸ウッディビルの登記簿謄本)

五 甲第五号証(著作物使用料規程)

附属書類

一 訴状副本 六通

二 甲第一ないし第五号証の写し 各六通

三 訴訟委任状 二通

四 法人登記簿謄本・履歴事項全部証明書 三通

平成一一年三月三一日

原告訴訟代理人

弁護士 田中豊

同 藤原浩

同 堀井敬一

東京地方裁判所民事部 御中

当事者目録

〒一五一-〇〇六四 東京都渋谷区上原三丁目六番一二号

原告 社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事 小野清子

〒一〇四-〇〇六一  東京都中央区銀座六丁目七番一八号

デイム銀座九階

橋元・木澤・藤原法律事務所

(送達場所)

電話 三五七一-一八三〇

FAX 三五七一-六六〇六

原告訴訟代理人

弁護士 田中豊

同 藤原浩

〒一〇五-〇〇〇一 東京都港区虎ノ門一丁目一六番四号

アーバン虎ノ門ビル六階

虎ノ門南法律事務所

電話 三五〇二-六二九四

FAX 三五八〇-二三四八

原告訴訟代理人

弁護士 堀井敬一

〒一三五-〇〇〇一 東京都江東区毛利一丁目一九番一七号クラウンマン

ション二〇四

被告 清原栄敏

〒一五〇-〇〇四二 東京都渋谷区宇田川町一三番八号

被告 株式会社ウッディ企画

右代表者代表取締役 末永洋市

〒一二三-〇八五三 東京都足立区本木一丁目二四番一九号

被告 蝶名林陸義

〒一三一-〇〇一二 東京都墨田区太平四丁目一五番一号山内ビル二〇二

被告 久家友美

〒二六一-〇〇〇四 千葉県千葉市美浜区高州三丁目一番三棟四〇二号

被告 小林学

〒一三四-〇〇八八 東京都江戸川区西葛西四丁目二番六三号

被告 株式会社オリエント

右代表者代表取締役 大久保巌

物件目録

一 東京都墨田区江東橋四丁目一三番二号プラザG五ビル四階に存する「アエラ」の店舗内に設置されたレーザーディスク、レーザーディスクプレーヤー、通信カラオケ機器(受信・再生・配信装置)、アンプ、モニターテレビ、マイク、スピーカー等のカラオケ関連機器

二 東京都墨田区江東橋四丁目二〇番一二号ウッディビル一階に存する「カウンターバーシャンテ」の店舗内に設置された通信カラオケ機器(受信・再生・配信装置)、アンプ、モニターテレビ、マイク、スピーカー等のカラオケ関連機器

三 東京都江東区亀戸一丁目三五番七号亀戸ウッディビル三階に存する「カラオケルームデュエット」一の店舗内に設置された通信カラオケ機器(受信・再生・配信装置)、アンプ、モニターテレビ、マイク、スピーカー等のカラオケ関連機器

四 東京都江東区亀戸一丁目三五番七号亀戸ウッディビル八階に存する「パブトップス」の店舗内に設置された通信カラオケ機器(受信・再生・配信装置)、アンプ、モニターテレビ、マイク、スピーカー等のカラオケ関連機器

別紙一覧表

<省略>

(注1)店舗番号三の使用料相当損害金については、「美少女倶楽部」の営業を開始したH6年1月31日から閉店したH8年8月31日までの使用料と、「カラオケルーム デュエット」を開店したH10年4月6日以降の使用料を合算した。

(注2)損害金起算日が月の途中の場合、<1>使用料相当損害金は日割り計算した。

(注3)店舗番号一ないし三の平成11年4月1日以降の損害月額は、18,900円(税込)である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例